【考察】
注入後、著しい炎症等の特記すべき反応は生じず、口腔周囲や歯肉部の見た目の改善ができ、高い患者満足が得られた。各患者とも、見た目の回復により、対人関係もより積極的になり、健康の増進への関心も高まったそうである。従来の歯科治療では解決が困難であった見た目の改善という問題も、ヒアルロン酸注入法を導入することによって可能となり、さらには、「見た目」を一つの入り口として、患者のアンチエイジングに対する関心も高まった。これは患者の目線に立った歯科治療の新たな選択肢の一つとして考えられる。
【結論】
機能的回復のみならず、歯科領域におけるアンチエイジング医療の普及の入り口の一つとして、見た目の改善に対するこうした新たな治療法の導入は、コンプライアンスを大前提としつつも、非常に有意義であると考えられる。
【参考:法的整合性】
平成8年5月16日に「歯科口腔外科に関する検討会」(厚生省特別第一会議室)が行われ、その中で、「歯科口腔外科の診療領域について」という議題があり、以下のように結論づけられました。
・診療領域として:口唇、頬粘膜、上下歯槽、硬口蓋、舌前3分の2、口腔底、軟口蓋、顎関節を含む顎骨、耳下腺を除く唾液腺。
(口唇の解剖学的構造)
口唇は、赤唇部のみをさすわけではなく、皮膚部・移行部(赤唇部)・粘膜部(口腔内)の3部からなり、口唇の基礎をなすのは口輪筋とされている。たとえば、唇裂の手術が歯科口腔外科で行えるのは、皮膚部も含めた口唇が、歯科口腔外科の診療範囲になっているからと考えられます。
【ヒアルロン酸製剤の入手について】
ヒアルロン酸製剤は、海外からの医師・歯科医師の個人輸入でのみ入手可能。輸入する際に、輸入許可申請書に必要理由書等と医師・歯科医師免許証の写しを添付して各地方厚生局に申請を行う。現在のところ、歯科医師が歯科治療に用いるための輸入は、各地方厚生局から許可されるようになっています。
【歯科で適応とする部位と適応とする理由】
口唇部のみに限局すること。すなわち、法令線・口角溝・赤唇部・鼻の下とオトガイ唇溝より上。
歯科疾患・歯科治療に起因する見た目の変化で、一般的な歯科治療を行っても対応が困難なもの。現状では、もっぱら美容を目的とした治療には積極的な適応は避けたほうがよいと考えています。